プリンセス・トヨトミ 万城目学

プリンセス・トヨトミ

プリンセス・トヨトミ

舞台は大阪。会計検査院の3人とセーラー服を着る少年のスケールの大きい小説。
「大阪が全停止」と紹介されているように、話の規模が大きく、ありえない設定だけど、なんだか面白い。調査官3人のキャラクターも個性があって、ぶれてない。
タイトルを見た時はピンと来なかったけど、読めばタイトルの意味もわかる。

ただ話のわりにボリュームが多い気もした。かなり読み進めないと「大阪が全停止」までいかない。
調査官3人のキャラクターが良かったのと結末が早く知りたかったのもあって、いっきに読み進めたが、前半部分が長すぎるので、ちょっと中だるみ気味なのが気になった。もう少しスムーズに読めるようにすると、ぐいぐいと引き込まれていったかも。
歴史に詳しい人が読むと、また違った視点で楽しめると思う。

彼女について よしもとばなな

彼女について

彼女について

ひとりで何もしないで暮らす主人公のところに、何年も会っていないいとこが訪ねてきたところから話が始まる。
最初は魔女や降霊だとかの言葉が出てきたので、ここまで現実離れした話だと思っていなかったから、ぎょっとした。
でも驚いたのは、そこだけじゃなくて、ラスト。


決して明るい終わり方じゃないし、軽い作品ではないけど、優しさに包まれている感覚。この優しさがなければ、本当に重くて読後感は悲惨だったはず。
少し「生きること」と「死ぬこと」について考えさせられる。ぐっとくる感じ。

植物図鑑 有川浩

植物図鑑

植物図鑑

とにかく甘い気分になれる恋愛小説。
行き倒れの男の子と同居することになって、その男の子は外見もまぁ良くて、家事もしてくれて、料理もうまい。ありえない設定だけど、主人公と男の子のやり取りで、にやけてしまったり、照れてしまう。
そこにタイトル通り、植物の話が混ざってる。植物でも、野草ばかりなのが個人的には良かった。料理がどれも美味しそう。
草食系男子とはまさにこれだ!と思う。

ベタで甘くて、ほんわか系の恋愛小説が好きな人は絶対にツボだと思う。

綺麗な生活 林真理子

綺麗な生活

綺麗な生活

美容整形外科に勤務する主人公と、美しい顔の男。男は母親の恋人の息子という、複雑な関係の二人だが、次第に惹かれ合うようになる。
だが、男が事故で美しさを失ったことで、主人公は男を愛せなくなってしまう。

主人公が働く美容整形外科での話が多く、女の「美への探求」が恐ろしいほどリアルに描かれている。「美への探求」は年を重ねるほど、その思いが強くなってくる。

自分が年をとったら?愛する人が今の顔を失ったら?
自分は果してどんな行動をとるのだろうか。

最後の、主人公と男の父親の会話が、ヒリヒリと残る。

ほかに踊りを知らない。 川上弘美

東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))

東京日記2 ほかに踊りを知らない。 (東京日記 (2))

どこまでが本当で、どこまでがウソ?と、不思議な感覚が残るエッセイ。
雑誌に掲載されていたらしく、日記形式になっている。

まさに川上ワールド全開で、2004年から2007年に書かれたものらしいが、古く懐かしい印象を受け、読み終わった後におかしな感覚に陥る。そして、癒される。
桃の香りが良くて、香りを消したくないがために、何日もごはんを作らなかったり、粗大ごみを出して少し悲しくなったり、どこまでが本当なのかわからないような話が多い。


何でもない日常を、(うそが交ざっているとしても)こんなに素敵に描けてしまうとは…!
1年に1回くらい、ふと手にしたくなる本だ。


ちなみに、タイトル「ほかに踊りを知らない。」の「踊り」は、東京音頭だった。
壊れたファックスの前で踊ってみる東京音頭

ロック母 角田光代

ロック母

ロック母

今までどの本にも収録されなかった「ゆうべの神様」を含めた短編集。
書かれた年代は、ばらばららしく、確かに「ゆうべの神様」なんかは、最近の作品に比べて、拙さを感じる。
だが、どの作品も、嫌な感じがうまく漂っていて、それがすごくリアルで、さすが!と思う。


表題作の「ロック母」は、未婚で妊娠した主人公が、出産のために、実家のある小さな島に帰る話。
久々に帰る実家で主人公が見たのは、母がニルヴァーナを大音量でかけながら、人形の服をひたすら縫っている姿だった。おかしくなった母と、子どもの父親に逃げられたことを言えないでいる主人公の、微妙な関係。
分娩室で流れるニルヴァーナ、最後の母の涙に、すこし泣けた。

玩具の言い分 朝倉かすみ

玩具の言い分

玩具の言い分

30代後半から40代前半の心情を描いた短編集。
主に、「恋愛」とか「結婚」よりも、「性」に対しての欲求について描かれている感じ。どのストーリーに出てくる人物も、女性特有の寂しさや嫉妬で、あがいていて痛い。

中年女性の痛さを描いた話なのもわかるけど、この年代の女性は共感できるのだろうか、と疑問に思う。
今のアラフォー世代は、もっと元気で輝いてるイメージがあるんだけども…。
もちろんこれに共感できる人もいるんだろうけど、とにかく「中年女性が痛い!」ってことしか残らず、リアルかどうかは微妙なところ。

終わり方が、この著者らしく、さっぱりしているのが救い。
独身の伯母を追いかけているように感じている女が主人公の「小包どろぼう」は、少しかわいらしさが混ざり、この本の中では一番良かったと思う。それでも十分、痛いお話だったんだけども。
朝倉かすみは、他にもっと良い作品があるからか、物足りなさを感じる。