イッツ・オンリー・トーク 絲山秋子

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)

やわらかい生活 の原作ということを知り、読んでみた。
映画はもうだいぶ前に見たけど、あまりにも救われない映画でショックを受けた。見ていて痛かった覚えがある。

原作は、わりと短めで、映画とはやはりちょっと違った。映像だと考える隙を与えないからだろうか、原作のほうが温度があるような感じがする。
主人公は躁鬱病の30代独身女。元ヒモの居候、鬱持ちのヤクザ、出会い系で知り合った痴漢、EDの都議など主人公と関わる人物が、とても濃い。男たちとの付かず離れずの関係に、主人公は安心している。深くない関係というのは、癒しになるのだ。

映画は後味の悪さがいつまでも残ったが、原作の後読感は良い。というのも、ラストが違うせいかもしれないが。硬くてさっぱりした文体だけど、「ひとりになってしまった。それでも生きる」という主人公の強さを感じる。

ひなた 吉田修一

ひなた (光文社文庫)

ひなた (光文社文庫)

大学生の尚純、アパレル広報勤務の彼女、尚純の兄、編集者勤務の兄嫁、それぞれの4人の視点で描かれている。
至って普通の日常、幸せそうな家族、外から見れば良くみえるのだが、それぞれが色んな思いを抱いていて、実はすごく不安定なのだ。
同性愛、不倫、尚純の出生の秘密など、重くグサリとくる部分が多いが、さらっと描かれているからか、暗い気持ちになるわけでもなく、後読感も悪くない。不安定な中で感じる「幸せ」が、ところどころにちりばめられている。

授乳 村田沙耶香

授乳

授乳

全く知らなかった作家だったが、雑誌で紹介されていたので読んでみた。

表題作「授乳」を含め、3作品が収録されているのだが、一番印象に残ったのは、ぬいぐるみを恋人にする女と少女の話だ。少女は、恋人と結ばれるためにラブホテルに行きたがったり、心中未遂まで起こすのだ。
ぬいぐるみが恋人なんて設定は現実には考えられないのだが、設定どうこうより、「女は産まれた時から女」ということが滲み出ている。
表題作の「授乳」は、自分の中にある程度腐った女があると感じている中学生が主人公。「女」を使い、だが時には「子ども」の立場を利用している。

人の厭な部分を見せられたような嫌悪感はあるが、それが決して不快ではなかった。この著者の他の作品も近々読んでみようかと思う。

ほかに誰がいる 朝倉かすみ

ほかに誰がいる (幻冬舎文庫)

ほかに誰がいる (幻冬舎文庫)

最初は、10代にありがち(?)な同性への憧れを書いているのかと思っていたのだが、読み進めるうちに、主人公の想いはどんどん重くなる一方。相手を想う度に、自分がすり減っていく様子がリアルに描かれていて胸が痛くなる。時々、これほどまでの想いに恐くなる。
絶対におかしい、狂っている、と思うのに読後感が悪くないのも良い。

ただ、想いを寄せている相手の魅力が、いまいちわからなかった。そこまで執着するほどの魅力は何だったんだろうかと思うが、もしかしたらそこはあんまり重要でないのかもしれない。主人公は彼女を初めて見た時から(会話をする前から)、想い続けていたんだし。

食堂かたつむり 小川糸

食堂かたつむり

食堂かたつむり

けっこう前にテレビで絶賛されていたから、ずっと気になっていたけれどもなかなか読めず、やっと手にすることができた。
失恋をした主人公が実家に帰り、仲の良くない母と新しく生活を始め、食堂を始めるというストーリー。
食堂で出されるメニューはどれも気になるものばかりで良かったけども、どうしても「流行にのった」感は否めない。田舎でいきなり食堂を始めて、しかも1日1組のみ、これで成功することに疑問はあるが、そこはフィクションなので許せるとしても、後半から話がぶれてきたのには読み飛ばしたくなってしまった。
流行りの"スローフード"だとか、"スローライフ"をイメージさせるが、中盤以降からは物足りないから他にも詰め込んでしまえ!といった感じで、食堂の話はほとんど出てこなくなる。
ストーリーがぶれすぎてて、何故あんなに絶賛されていたのか不思議に思う。

料理を扱った本だと、吉本ばななの「キッチン」は時々ふっと読みたくなって、今でも読み返したりするけど、この本はきっと今後読み返すことはないだろうな…。

神田川デイズ 豊島ミホ

神田川デイズ

神田川デイズ

大学生活を中心とした青春小説。出てくる登場人物はなんだかパッとしなくて冴えない。
全然目立たなくて影が薄かったり、普段注目を浴びるわけでもない、そういう人物の葛藤とか悩みとか、少しずつの変化が書かれている。

以前出てきた人物が別の話で登場したりして、それが自然に馴染んでいて良かった。
私は大学を出たわけでもないし、"学校生活"で思い出すものがあまりにも少ないけれど、面白く読めた。きっと大学生を経験した人なら、更に楽しめるはず。
豊島ミホらしい作品だと感じた。

論理と感性は相反しない 山崎ナオコーラ

論理と感性は相反しない

論理と感性は相反しない

タイトルが良い。装丁のイラストも良い。
内容は、ぼやっとした感じ。良くもなく悪くもなく、面白くはないけど、つまらなくもない。
全15編の短編集だが、登場人物は何かしらリンクしている。1篇がとても短いものもあるので、読みやすいとは思う。

メインの登場人物で出てくる小説家が、山崎ナオコーラ自信なのではないか。これは本人の体験だとか、愚痴だとか、そのまま書いているんではないかと思った。この著者は、文体や言葉になんとなく棘があって、それがものすごく押しつけがましい気がする。