オリンピックの身代金 奥田英朗

オリンピックの身代金

オリンピックの身代金

格差社会」という現実
東京オリンピックを中止させようとするテロリストの東大生と、それを追う警察の視点で話が進む。
東大生の島崎国男が兄の死により「格差社会」を目の当たりにし、そこからテロリストになっていく。東京オリンピックのために過酷な労働を強いられる出稼ぎ労働者、過酷な労働に耐えるため薬物中毒になっていく者。

本のジャンルとしてはミステリーやサスペンスなのだろうが、犯人はすぐにわかってしまうし、そもそも謎解きが目的ではない。「格差社会」という事実を書きたくて、東京オリンピックをテーマにしたんではないだろうかと思う。
私はこの時代に生まれていないし、この時代のことをあまり知らない。しかし構成がしっかりしているせいか、それぞれの章の時間がバラバラに書かれているのに、すんなりと読めてしまう。通常のサスペンスやミステリーで感じる緊張感がないにも関わらず、524ページ2段組みの長編をあっという間に読み終えてしまった。
シリアスな作品なんだけども、ところどころにあるちょっとしたユーモアが奥田英朗らしい。

この本は東京オリンピックが開催された昭和39年が舞台だが、この「格差社会」は現代にも通じるものがあるのではないだろうか。