駈込み訴え 太宰 治

斜陽 人間失格 桜桃 走れメロス 外七篇 (文春文庫)

斜陽 人間失格 桜桃 走れメロス 外七篇 (文春文庫)

愛憎による裏切り
ユダがキリストを裏切るまでの話が、ユダの視点で書かれている。
太宰の中で大好きな作品。太宰ベスト5を作れと言われたら、絶対に入る。

子供の頃に聖書を読んだ私は(正確に言うと読まされた)、ユダは裏切り者で「悪い人」と教えられてきて、そう認識していたが、これを読んで複雑な気持ちになった。
愛情と憎しみは紙一重。この言葉がしっくりくる。愛情があり慕っているからこそ、その人から何かしらの見返りが欲しくなる。辱かしめられたと感じ、裏切ってしまう。銀三十枚を受け取る時の複雑な感情。

金。世の中は金だけだ。銀三十、なんと素晴らしい。いただきましょう。私は、けちな商人です。欲しくてならぬ。はい、有難う存じます。はい、はい。申しおくれました。私の名は、商人のユダ。へっへ。イスカリオテのユダ

ラストの、金のために裏切ったと、思い込もうと、開き直ろうとしているところが好き。